ピグマリオン効果を子育てに取り入れると良いってホント?
失敗例や注意点はある?
そんなあなたの疑問にお答えします。
- ピグマリオン効果とは、指導者の期待によって対象者の成果が上がる心理効果である。
- ローゼンタールの実験によると、教師の期待によって生徒の成績が上がったらしい。
- だから、ピグマリオン効果は子育てにも活用することができる。
- 親が期待をかければ子供がそれに応えてくれる。
- 叱ることは良くなく、褒めることがとにかく重要である。
厳しい言い方になりますが、ピグマリオン効果への理解がこの程度だと、あなたの教育は失敗してしまう可能性が高いです。
ピグマリオン効果を誤って解釈したまま子育てに応用すると、子供に不信感が生まれるおそれがあります。
場合によっては手を抜く子供になったり、自尊心が肥大した子供になりかねません。
本記事は「子育て」と「ピグマリオン効果」をテーマに、考えられる失敗事例を余すことなく紹介していきます。
もちろん目的は、ピグマリオン効果を正しく理解して失敗の芽を摘んでいくことにあります。
本記事はピグマリオン効果を子育てに応用しようとする親の気持ちを否定する目的はありません。
そのことは最終章での筆者の考えを読んでいただければ理解できると思います。当ブログ至上、最も時間をかけて執筆しました。
ぜひ最後までお付き合いください。
✔本記事のテーマ
「ピグマリオン効果」×「子育て」=「失敗?」:意味と注意点を正しく理解!
✔本記事でわかること
【ピグマリオン効果と子育て】ピグマリオン効果の勘違い/失敗例/褒め方の工夫/大切なこと
✔ピグマリオン効果の記事一覧
0.前提:ピグマリオン効果の勘違い
ある小学校で能力が高い生徒のリストを教師に見せたうえで指導させたところ、その生徒の成績が顕著に向上した。
ローゼンタールのあまりに有名な実験です。
この実験結果から、相手を褒めるなどして期待をかけることで、相手の成果が向上することがピグマリオン効果であるという短絡的な発想をする人が後を絶ちません。
以下、重要なポイントです。
- そもそもローゼンタールの実験は再現性が低いとされている。
- 実験参加者の教師はリストをきちんと見ておらず、生徒の名前すら憶えていなかったとされている。
- この実験での期待の定義が曖昧。仮にこの実験での教師の期待が生徒の成績向上に寄与したとして、あなたの期待が成果につながるという実験データはない。
- 教師が期待することで無意識的に特定生徒への指導が変わった。つまり教師のアプローチの変化が生徒の成績向上につながったわけで、期待すれば成果が上がるという短絡的なものではない。
ピグマリオン効果は、無意識的な認知バイアスです。本来、意識的に期待をすることによって生徒の成績を上げるというものではありません。
ましてや、望み通りの結果を導き出すための手法ではないということです。
さらに、ピグマリオン効果は「褒める教育」のことではありません。ただ褒めれば良いという勘違いのもとにピグマリオン効果を応用すると、おそらく子供とのすれ違いが生じます。
以上を前提としてピグマリオン効果の失敗例をお読みいただけると、本記事は理解しやすいと思います。それでは始めます。
1.ピグマリオン効果の失敗例
①親の期待と子供の期待の不一致
親が子供の健康を願う。当たり前のことです。
だから親は子供にジャンクフードを食べさせたくない。でも子供はハンバーガーが食べたくて食べたくてしょうがない。
よくあるお話です。筆者の小さいころの体験でもあります。
閑話休題、ピグマリオン効果の失敗で多いのは、親の期待の押しつけです。
期待の不一致がよくないわけではありません。というより、期待の不一致はしょっちゅう起こりますよね。親子とはいえ違う人間ですから、価値観は異なります。
ただし、期待の押しつけは良くありません。
例えば、子供に良い中学校に入って欲しいから、親は子供の塾の成績に期待する。だからテストの点が良ければ子供は親に褒められる。
でも、子供は体を動かすのが好きで、あるいは仲の良い友達たちが自慢で、本当はちょっとした課外活動や良好な人間関係を評価して欲しいのかもしれません。
こういったケースでは、親の期待通りに子供を矯正するのではなく、子供の期待を受け入れることが重要です。
というより、親の期待によって子供の成果が上がるという発想を捨ててください。
もし子供に何かを期待するときは、その期待が子供が納得しているものなのかをつぶさに観察することが重要です。
自分の期待通りに子供が動かなかったとしても、イライラしてはいけません。子供の選択を尊重してください。
考え方を変えれば、自分の想像しなかった選択をしたわけです。その多様性こそ褒めるべき対象なのではないでしょうか。
また、子供に意見を聞く、子供の話を傾聴する、多数の選択肢を与える、提案を通じて子供とともに未来を形成していくことが大切です。
②一方的な期待による主体性の欠如
ピグマリオン効果は、教師と生徒、上司と部下といったように、上下関係の制約のもとに発動する心理効果です。
親と子供に上下関係があると捉えるか無いと捉えるかはご家庭の価値観ですから、ここではその是非は問いません。
もし上下関係を認めてピグマリオン効果を子育てに応用する場合、重大な注意点があります。
ピグマリオン効果は前述の通り、指導者の無意識的な認知バイアスにより、対象者へのアプローチの変化が成果の向上に影響を与えます。
つまり、ピグマリオン効果は「指導者→対象者」という一方向の教育手法なのです。
この点を理解しないと、子供が親の期待を前提として行動するという主体性の欠如につながりかねません。
場合によっては指示待ち人間になってしまうかもしれません。
解決策として、何か目標がある場合は一緒に計画することを推奨します。また、子供に計画を全面的にゆだねる場面を作るようにしましょう。
人生に関わる大きなことからいきなり挑戦するのは難しいでしょうから、簡単なことから自主的に行動計画を立てられるように導いてあげてください。
③期待が大きすぎる
親の期待が大きすぎて子供に過度のプレッシャーを与える場合があります。
目標と現実との乖離が大きい場合、子供の意欲が著しく減少するおそれがあります。
そのギャップを埋めるためにズルをしてしまうかもしれません。
例えばテストのカンニング。
これは、親が行動ではなく結果によってのみ評価する場合に多く見られる現象です。
往々にしてこういう親は、子供への期待が大きくなりがちです。
理由は子供の行動に目を向けておらず、子供の現実を正しく理解できていないからです。
対策としては「子供の行動を良く見る」こと以外思いつきません。
親の期待が大きすぎて子供がギャップを埋められない場合、「やっても無駄だ」という学習性無力感におちいることもあるので注意が必要です。
④期待に対する評価が減点主義である
そもそもピグマリオン効果の相手に期待するという側面は、教育者にとって当然の態度であり、相手の成果を期待するものではないという批判意見があります。
その是非はさておき、期待に対する子供の成果を親が評価する場合を考えてみましょう。
例えば幼児が遊んでいて、部屋中におもちゃを散らかしたとしましょう。その数は10個とします。
さて、片付けのお時間です。残念ながら、8個しか片付けることができませんでした。残りの2個は床に転がったままです。
この場合「8個も片付けられた」と考えるのが加点主義で、「2個は片付けられなかった」と考えるのが減点主義です。
完璧主義で理想を押し付けがちの親にありがちなのが、減点主義の評価です。
テストで満点以外は認めない、失敗を成長と捉えることができない、現状維持を後退と考えるなどの傾向があります。
子供の良い点を探そうとしていないとも言えます。子供の行動面を評価していないとも言えます。
子供を評価する場合は加点主義をおすすめします。加点主義の立場を取ると、良いところを頑張って探そうとするので、結果的に行動面に目を向ける頻度が高まります。
何ができないかではなく、何ができるのか。この視点に立つことが重要です。
⑤褒め方に問題がある
相手に期待をかける方法として、褒めるのは一つの手段です。ピグマリオン効果として褒める行為を子育てに取り入れる場合の失敗例を紹介します。
・褒めてはいるが嘘がある
ピグマリオン効果の前提は、無意識レベルで対象者に期待していることです。
褒めることが目的となり、その内容に嘘がある場合、子供は親に不信感を覚えます。
自分をコントロールするのが目的であると見抜かれたら「ジ・エンド」です。
・褒め方が過剰
子供に不快感を与えるおそれがあります。
年齢を重ねると、恥ずかしいという感情を覚えることもあるかもしれません。
・成長していないのに褒める
「褒める」が形骸化している典型です。
「褒める教育」の弊害ともなる点です。
成長していないのに褒められる場合は、現状に満足して手抜き行動につながるおそれがあります。
また、「能力が伴わないナルシストになる」という批判意見もあります。
成長していない場合は褒める必要はありません。「褒める」ということを否定しているわけではなく、中身のない親の行動を否定しているのです。
一方、成果が上がらなくても行動面に変化が見られた場合は褒めてあげてください。
例えば練習を頑張ったのに試合で負けてしまった。この場合、練習を頑張ったという過程にフォーカスすることが重要です。
・「褒める」以外の評価方法の否定
「うちは褒める教育をしているので決して子供を叱ったりしないんザマス」
理念は御大層なものですが、例えば子供が倫理的に問題のある行動をした場合はどうでしょうか。
感情的に怒る必要は全くありませんが、問題のある行動に対してはきちんと指摘して改善を促す必要があるのではないでしょうか。
・一度褒めたことを否定する
例えば夏休み。小学生が自由研究の課題に取り組んでいたとしましょう。途中、あることが気になり図鑑で夢中に調べて数時間が経っていた。
その知的好奇心を満たす行動は褒めてあげたくなりますね。親として当然の態度であると思います。
ところが、夏休みが終わりに近づき、学校の宿題が終わっていないことに気づいたとしましょう。子供は毎日のように図鑑に夢中であるという状況。
こういったケースでついつい「いつまで図鑑に夢中になっているの、早くやるべきことを片付けなさい!」などと言ってしまいがちです。
まず、夢中になったことを肯定したのは親です。「やるべきこと」は誰が決めたことでしょう。親です。
このような親の一貫性のない行動は、子供の好奇心や自主性の芽を摘んでしまうことになります。言うまでもなく、子供の親への信頼度はガタ落ちします。
2.褒め方の工夫
ピグマリオン効果においては、褒めることよりもその褒め方が重要である。
このような意見を持たれる方が多いです。
なので、推奨される褒め方をいくつか紹介したいと思います。
・本心で褒める
まず前提として、「嘘」をふくんだ褒め方をしないということが重要です。
・具体的に褒める
目的も具体性もなく形式的に褒めることを避けましょう。
・すぐに褒める
子供に「なぜ褒められているのかわからない」「なぜ今更ほめるのかわからない」と思われないようにしましょう。
・行動を褒める
成果ばかりではなく過程も評価するようにしましょう。
・当たり前のことでも褒める
大人が当たり前と思っていることでも、行動面の変化が見られたら褒めるようにしましょう。
大人にとって当たり前のことでも、子供にとっては重大なことかもしれません。
・細分化して褒める
当たり前のことを褒めるのは慣れないうちは難しいかもしれません。
そもそもどこを褒めるのかがわからないこともあります。
その場合は子供の行動を細分化してみてください。細分化したものを並べてみると、どこに変化があったかわかりやすいと思います。
3.子供を信じる、可能性を広げる
ピグマリオン効果を子育てに応用する場合、いくつかの問題点があることをここまで述べてきました。
しかし、ピグマリオン効果を子育てに応用したいと考えたきっかけは、「子供に少しでも良い未来を」などの親心からくるものではないでしょうか。
ピグマリオン効果は子供をコントロールするための手法ではありません。
だから子育てに役立たないかというとそんなことはなく、マイナス面など理解していく過程で様々な気づきが得られたのではないかと思います。
前提となるのは、子供を信じるということです。
子供への期待は子供の可能性が広がるきっかけになると考えています。
ピグマリオン効果の応用では、親の期待と子供の期待が一致しないことが多いと述べました。
これはすなわち、親の期待には子供が想像できないものがあるということです。
つまり、親が期待をかけることで結果的に、子供の選択肢が広がるということも考えられるのです。
当たり前ですが親は子供より長生きしています。その分、子供より経験値が多いのが親というもの。
ですから、ピグマリオン効果を正しく理解して子供に期待を持つことは、子供への未来につながる可能性を十分に示唆したものでもあるのです。
今回はここまでです。
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